日々の業務に慣れる中で、「損益計算書(そんえきけいさんしょ)」や「P/L(ピーエル)」といった言葉を耳にする機会があるかもしれません。「経理の専門用語で難しそう」「自分の仕事には直接関係ないかな」と感じていませんか?
実は、損益計算書は会社の健康状態を示す「成績表」であり、皆さん一人ひとりの仕事と密接に繋がっています。そして、その仕組みは私たちが日頃から慣れ親しんでいる家計簿と驚くほどよく似ています。
前回の「貸借対照表」も家計簿に例えるとわかりやすかったと思います。
この記事では、ビジネスの数字に苦手意識を持つ新入社員の方に向けて、損益計算書の基本をわかりやすい言葉で解説します。この記事を読めば、「会社の利益」がどのように生まれるのか、自分の仕事がどう貢献しているのか、そして「お金の大切さ」を深く理解し、数字に強いビジネスパーソンへの第一歩を踏み出せます。
そもそも損益計算書(P/L)って何?自分に関係あるの?

損益計算書とは、英語の「Profit and Loss Statement」の頭文字をとって「P/L」とも呼ばれる、企業の財務状況を示す重要な書類(財務諸表)の一つです。一言でいうと、「一定期間(通常は1年間)で、会社がどれだけ儲かったか(利益)、あるいは損をしたか(損失)」という経営成績をまとめたレポートです。
「でも、それが自分にどう関係あるの?」という疑問はもっともです。
しかし、考えてみてください。皆さんの給与やボーナスは、会社が生み出した利益から支払われます。会社の業績が良ければ、昇給や事業拡大、新しい挑戦の機会も増えるでしょう。つまり、損益計算書に示される会社の成績は、皆さんの働きがいやキャリアに直結するのです。
損益計算書を理解することは、自分の仕事が会社の業績にどう貢献しているのかを数字で把握し、お金の大切さを実感するための重要なスキルと言えます。
損益計算書は会社の「家計簿」!まずは全体像を掴もう
難しく考えず、まずは損益計算書を「会社の家計簿」だとイメージしてみましょう。このシンプルな置き換えが、全体像を掴むための鍵となります。
家計簿で考える「収入」と「支出」
私たちの家計簿は、主に以下の要素で成り立っていますよね。
項目 | 内容 |
収入 | 給料、ボーナスなど、入ってくるお金 |
支出 | 家賃、食費、光熱費、交際費など、出ていくお金 |
収支 | 「収入」から「支出」を差し引いた残りのお金(貯金または赤字) |
この「収入 − 支出 = 収支」という基本構造は、損益計算書でも全く同じです。
会社のお金の流れ:売上から利益が生まれるまで
次に、この家計簿の考え方を会社に置き換えてみましょう。
項目(家計簿) | 項目(会社) | 内容 |
収入 | 売上高 | 商品やサービスを販売して得たお金の総額 |
支出 | 費用 | 商品の仕入れ代(原価)、人件費、家賃など事業で使ったお金 |
収支 | 利益 | 「売上高」から「費用」を差し引いて最終的に残ったお金 |
このように、会社も入ってきたお金(売上)から出ていったお金(費用)を引いて、最終的な儲け(利益)を計算します。ただし、会社の場合は「費用」の種類が多岐にわたるため、何段階かに分けて利益を計算していくのが特徴です。
【5ステップで理解】損益計算書の5つの利益を徹底解説

損益計算書には、会社の成績を多角的に分析するために「5つの利益」が登場します。これは会社の健康診断のようなもので、どの部分が好調で、どこに課題があるのかを示してくれます。上から順番に見ていきましょう。
①売上総利益:商品の「儲け」はいくら?
売上総利益は、商品やサービスそのものが持つ基本的な収益力を示す利益です。「粗利(あらり)」とも呼ばれ、ビジネスの出発点となります。
■計算式:売上高 − 売上原価 = 売上総利益
- 売上高:商品やサービスを売って得た総額。会社の「収入」の源泉です。
- 売上原価:売れた商品の仕入れや製造にかかった費用。メーカーなら材料費や工場の人件費、小売業なら商品の仕入れ値がこれにあたります。
【家計簿で例えると…】
フリマアプリで古着を3,000円で販売し、その仕入れ値が1,000円だったとします。
この場合、売上総利益は「3,000円 – 1,000円 = 2,000円」です。これが商品自体の儲けとなります。
②営業利益:本業で稼いだ「本当の利益」
営業利益は、会社が本業でどれだけ稼いだかを示す、非常に重要な利益です。企業の「稼ぐ力」を最も純粋に表す指標と言われます。
■計算式:売上総利益 − 販売費及び一般管理費 = 営業利益
- 販売費及び一般管理費(販管費):商品を売るための活動や会社を維持するためにかかる費用。従業員の給料、広告宣伝費、オフィスの家賃、交通費などが含まれます。
【家計簿で例えると…】
先ほどの古着販売の例で、送料や梱包材に500円かかったとします。
この場合、営業利益は「2,000円(売上総利益) – 500円(販管費) = 1,500円」です。これが本業の活動で得た最終的な利益です。
③経常利益:会社全体の「普段の利益」
経常利益は、本業の利益に加えて、それ以外の日常的な活動(財務活動など)で得た利益や損失を反映したものです。「けいつね」と略されることもあります。
■ 計算式:営業利益 + 営業外収益 − 営業外費用 = 経常利益
- 営業外収益:本業以外で経常的に発生する収益(例:預金の受取利息、持っている株式の配当金)
- 営業外費用:本業以外で経常的に発生する費用(例:銀行からの借入金の支払利息)
会社の「普段の実力」を示す指標として重視されます。
例えば、営業利益が黒字でも、多額の借金があり支払利息が大きければ、経常利益は赤字になることもあります。
④税引前当期純利益:税金を払う前の最終利益
税引前当期純利益は、その期に発生した全ての収益から全ての費用を差し引いた、文字通り税金を支払う前の利益です。
■計算式:経常利益 + 特別利益 − 特別損失 = 税引前当期純利益
- 特別利益:その期だけに発生した臨時的な利益(例:長年使っていなかった土地や建物の売却益)
- 特別損失:その期だけに発生した臨時的な損失(例:災害による工場の倒壊損失、大規模なリストラ費用)
経常利益が会社の「普段の顔」なら、こちらは火事や災害といった予期せぬ出来事も含めた「その期の全ての結果」と言えます。
⑤当期純利益:会社に残る「最終的な儲け」
当期純利益は、税引前当期純利益から法人税などの税金を支払った後に、最終的に会社の手元に残る利益です。これが一年間の経営活動の最終ゴールとなります。
■計算式:税引前当期純利益 − 法人税等 = 当期純利益
この当期純利益がプラスであれば黒字、マイナスであれば赤字です。この利益が、将来の事業投資の源泉になったり、株主への配当として分配されたり、そして従業員の給与・賞与の原資となったりします。
なぜ新入社員が損益計算書を知るべきなの?お金の大切さとは

最後に、新入社員である皆さんが損益計算書を学ぶことの重要性を、3つの具体的なメリットから解説します。
自分の仕事が「利益」に繋がっていると実感できる
損益計算書は、自分の仕事の成果を客観的な数字で確認できるツールです。
職種の例 | 貢献できる損益計算書の項目 | 具体的なアクション例 |
営業職 | 売上高の増加、販管費の削減 | 新規顧客の開拓、効率的な営業ルートの確立による交通費削減 |
開発・製造職 | 売上原価の低減 | 製造プロセスの改善による時間短縮、安価で質の良い部品の探索 |
企画・マーケ職 | 売上高の増加、販管費の最適化 | 効果的な広告宣伝の実施、費用対効果の高いプロモーションの企画 |
管理部門 (人事・経理・総務) | 販管費の削減 | 備品購入の見直しによるコストカット、ペーパーレス化の推進 |
このように、自分の日々の業務が損益計算書のどの項目に影響を与え、最終的な利益に貢献しているのかを意識できるようになります。これは、仕事へのモチベーションを高め、お金の大切さを自分事として理解する上で非常に重要です。
「赤字」と「黒字」がわかると会社の状況が見えてくる
損益計算書を読むことで、自社がどの利益段階で課題を抱えているのかが見えてきます。
- 営業利益が赤字:本業で儲けが出ていない深刻な状態。全社的なコスト削減や売上向上の努力が必要。
- 経常利益が赤字:本業は好調でも、借入金の利息負担などが重い可能性。財務体質の改善が課題。
- 当期純利益が赤字:災害など、臨時的な大きな損失があったのかもしれない。一過性のものかどうかの見極めが重要。
会社の置かれている状況を正しく理解することで、会社が打ち出す方針や戦略の意図を汲み取りやすくなり、当事者意識を持って仕事に取り組めるようになります。
ビジネスの共通言語「簿記」への第一歩
損益計算書は、会計ルールである「簿記」の知識に基づいています。簿記は、業種や職種を問わず、あらゆるビジネスシーンで役立つ「ビジネスの共通言語」です。
新入社員のうちから損益計算書に親しんでおくことで、簿記の基本的な考え方が自然と身につき、将来的にキャリアアップを目指す上での強力な武器となります。

まとめ:損益計算書を理解して、デキるビジネスパーソンを目指す!

今回は、新入社員の皆さんに向けて、損益計算書の基本を家計簿に例えてわかりやすく解説しました。
最初は難しく感じるかもしれませんが、大切なポイントは以下の通りです。
- 損益計算書は会社の「成績表」であり、「家計簿」に似ている
- 「売上」から様々な「費用」を引いて段階的に「利益」を計算する
- 5つの利益(売上総利益、営業利益、経常利益、税引前当期純利益、当期純利益)を順番に追うことで、会社がどのように儲けているかがわかる
- 自分の仕事が会社の利益に繋がっていることを意識することが、成長の鍵
損益計算書を理解することは、会社の数字に強いビジネスパーソンになるための重要な一歩です。
この記事をきっかけに、ぜひ自社の損益計算書(公開されていれば)にも興味を持ってみてください。
数字の裏側にあるストーリーを読み解く力が、あなたのビジネスキャリアをより豊かで実りあるものにしてくれるはずです。